公益財団法人中山隼雄科学技術文化財団 公益財団法人中山隼雄科学技術文化財団

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特別対談

特別対談

東京都出身。(公財)中山隼雄科学技術文化財団 理事長・代表理事。 起業家。自ら設立した(株)マーベラスAQL代表取締役会長、(株)アミューズキャピタル インベストメント代表取締役社長を兼務。

北海道出身。立教大学現代心理学部教授。精神科医、臨床心理士。『リカちゃんコンプレックス』他専門分野の著書多数。時事問題等についてもTV、雑誌等のメディアで精力的に活動。

香山

設立20周年とのことですが、20年前に個人で「遊び」に関する研究助成を行う財団を作ったというのは他にはなかったことと思います。当時、前理事長がやっていらっしゃることを見ていかがでしたか。

中山

設立当時は、ゲームや「遊び」の社会的地位は確立されていなかったと思います。私が子供の頃に「父親の職業は?」と聞かれて「ゲーム屋」と答えるとあまり良い印象を持たれなかった記憶があります。そのような経験を経て、ゲームや「遊び」を文化として捉えることを通じて、社会に貢献することが出来るということを世の中に伝えたいという想いがあったのではないかと思います。
 また、特に米国では成功者の間に昔から寄付とか財団活動などの意識が強いのですが、前理事長は、もともとジュークボックスの輸入という海外ビジネスをしていたので、その影響もあったのでしょうね。

香山

今でこそCSRが注目されていますが、20年前から中山財団が活動されていたという話をすると、私のまわりからは非常に驚かれます。世間的に「遊び」は良いものではないと言われていた時代に、先見の明があったというか、画期的なことでしたよね。
 2006年に前理事長から引き継いだときには、前理事長からはなにか特別に「こうしてくれ」と言われました?

中山

引き継いだ頃は、ITも社会に根付き、SNSやオンラインゲームが出始めてきた時期で、「遊び」にも変化が出てきた頃でした。当時は財団に寄せられる研究も、まだアナログ的な「遊び」に関するものが中心でしたので、これからはITやオンラインの「遊び」に関する研究に力を入れるように、との話はありました。香山さんは当時をどう思われますか?

香山


私も1996年に『テレビゲームと癒し』という本を出版したのですが、賛否両論で、当時は「現実と虚構がわからなくなって犯罪を起こした」「ゲームは子供にとって良くないのではないか」とか言われる時代だったように思います。

中山

漫画、アニメ、ゲームなど、新しい「遊び」が登場した時というのは、大抵、批判されてましたよね。今は認知度も上がり、日本の素晴らしい文化として海外で評価されている。この間フランスで開催された日本のアニメとかゲームのキャラクターの祭典「JAPAN Expo(ジャパン・エキスポ)」は入場者10万人規模ですからね。そういうことを考えると、ゲームも昔よりポジションが上がってきていますけど。

香山

確かにそうですね。医療分野でも期待されてきていると思います。テレビゲームが引きこもりとか鬱病の人に有効なら、「最初からそれを目的としたゲームを作れないか?」と相談を受けたりもします。海外では、実際にそういうゲームがあるのですが、プレイしている動画を見るとつまらなそうなので、私の場合、患者さんには普通の楽しそうなゲームを勧めています。「じゃあ、このゲーム一緒にやってみようか」なんて言って、ゲームをやっているうちに、だんだんその患者さんの症状も改善されたなんてことも多いですよ。

中山


ゲームをすることの一番の良さは、「達成感」だと思います。ステージクリアして、次のステージへ進みたいと思う意欲が出てくることが良いのでしょうね。

香山

そうそう、「達成感」。でも、ゲームの中で得られた達成感をなかなか現実にシフト出来ないですよね。治療する側の人間が、「ゲームの世界で達成出来たのだから、現実でもあなたの良さは発揮出来るよ!」と背中を押す役になれば良いと思っていますが。

中山

そうですね。ツールとしてのゲームはあるかもしれないけど、ゲームだけで全てを行うのは難しいですね。財団の活動でもそのような視点は必要かなと思っています。

香山

その財団の活動に関してですが、この20年間で日本の経済情勢も大きく変わり、新しいことをやるとか、助成するとか、そういうことよりも、まず自分たちの足元をなんとかしなければみたいな状況です。一方では、社会貢献などにより注目が集まっています。そのような中で、新しく研究をする方達を応援することの意義はどのようなことでしょう?すぐに、ビジネスには結びつかないものが多いと思うのですが。

中山

社会貢献しているという感覚はあまりないかもしれません。単純に「『面白そうなもの』を、自分たちも見てみたい」そういう気持ちです。面白そうだけど、ビジネスとしては出来ないような研究テーマが多くて、「大学教授がこんなテーマをやるのか!?」とか、こちら側も楽しんでいるところはありますね。

香山


ビジネスを知る者としては、「いやそんな甘いよ」とか、「こんなんじゃ的外れだ」とか、言いたいこともあるのではないですか。

中山

実は、その逆で、ビジネスでは最終的な収益を常に意識してしまうけど、そういう部分を考えないところから生まれる、思いもつかないユニークな発想があると思っています。新しい「遊び」のヒントになるようなものが出て、そこからビジネスに結びつく可能性だってありますよね。

香山

財団の事業として、今後の方向性は?

中山

方向性は限定していませんが、これからはネットを介したオンラインの「遊び」が中心になってくると思いますので、それが社会的にどう影響を与えていくか研究していく必要がありますね。

香山

オンラインだと、実社会の延長な部分があって、どこまでを「遊び」で、どこまでを勉強、あるいはビジネスとするかなど、その線引きがなくなってきている気がするのですが。

中山



今まではゲームはゲーム機で、小説や漫画は本で、友人とのコミュニケーションは電話やメールででした。今はフェイスブックなどのSNSやオンラインゲームの広まりもあって、お互いの領域が重なり、繋がってきて例えばシリアスゲームなど面白い動きがどんどん出てきています。

香山

そうですね。ただ逆に、それらが一元化されてきている中で「遊び」を研究するとなると、どこを切り取って研究するかというのが非常に難しそうです。

中山

「楽しい」、「嬉しい」と感じることを基本的には全部「遊び」と定義していいのではないかと思っています。友達みんなで「遊びに行こうぜ」と言っても、飲みに行って語るだけかもしれない。でも、その中で、脳が活性化されてストレス発散につながっていったりする。そういうこと含めて「遊び」と捉えていいような気がします。あまり、狭義にはしたくないと思っています。
 PC、携帯電話の普及はもとより、コンソール型ゲーム機の爆発的台頭とモバイルゲームに主役の座が移りつつあるという現象は、みなこの20年のことです。人間は順応性が高いですから、時代の流れに合わせて発想を変え、「遊び」の可能性は無限に広がっていくものと信じています。

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